小さな小学校の運動会

今朝、Fさんが「梅干し」をぶら下げ出勤してきた。お母さんが6月漬けた自家製。

「母さんからです」。小瓶に小分けしたお裾分けである。いつものように少しオーバーなお礼を言い、お互い仕事に取り掛かる。

久しぶりの三連休を過ごした彼の表情は、いつもの休み明けより、少し表情が柔らかいような感じがした。

10月1日は、小さな「吉部小学校」の運動会。彼と同居する甥の「まぁくん」は今年、小学3年生。

まぁくんが小学校に入学した3年前から、半ば無理やり運動会がある日は彼に休みを与え「行って来たら」と背中を押してやる。

当初、「行っても行かんでも、どうでもええ」と投げやりだった彼が、昨年は「本当に日曜日に休んでエエんですか?」と心配して尋ね。

今年は当たり前のように地域の行事へ参加した。

過疎化が進む吉部地域の人口は800人弱。20区に区割りされた自治会で組織され、学校行事を地域を上げて盛り上げる。

小学校在校生は24人。盛り上げる方々も年々、高齢化していく中、40代のFさんは「若手」に分類される。

私たちが、この地域で仕事を始めた頃は小さいながらも幼稚園あり、中学校もあったので、幼稚園、小学校、中学校合同の運動会が開かれていた。

当時から地域で少ない子供たちを支え、運動会を運営し、「うなぎの掴み取り」など面白い競技があり、私が仕事を終える時間帯は、かなり気持ちが良くなったオジサンたちが千鳥足でお土産を持って帰る姿が風物詩であった。

過疎化が加速し、幼稚園は閉園。中学校は船木中学校と統合した。今年は、小学生24人を吉部の皆さんが応援し、一緒に汗を流す運動会。

時期的に、10月はじめに行われるのは農繁期、つまり「稲刈り」を終えるこの時期が、地域では一番、人が集まり易い時期でもある。

パートのF井さんの自治会には小学生が2人。朝早くから自治会参加者の弁当を集会所で手作りして運動会を盛り上げ、同じ自治会の小学生2人を応援する。

Fさんの自治会の小学生は1人。彼の甥「まぁくん」が地域のスーパースターになるのが、ここ3年。吉部小学校の3年生は2人らしい。

午前中は小学生のプログラムが多く、午後からは自治会対抗プログラムが多く組まれている。

Fさんも対抗リレーに参加予定だったが、下関に住む姉夫婦が運動会に参加してくれたため、義兄に出番を譲ったようである。

リレーの様子を聞きながら、本当は彼が走りたかったのではなかろうかと想像し「義兄よりあなたの方が早かったのでは?」と尋ねると。

「うん。。まぁ。。そんな感じはした」とポツリと返事。私にしてみると少々、残念な気持ちしたが、彼の「持ち味」とは良くも悪くも、こういう性分。

ただ、開会から閉会まで、テントの陰で運動会を見学した彼の姿は、家族の一員、地域の一員として「まぁくん」の記憶に残っただろう。

彼が農園で仕事をはじめて6年が経過した。対人関係が苦手な彼は在宅期間も長かった。

小さな集落の吉部では彼が生まれた時から知っている住民ばかりで、私たちと一緒に仕事をはじめたころは、タマゴを買い求めに来られる地域のお客さまから

「よく親方の話しを聞いて頑張らんにゃぁいけんよ!」と励ましというか、脅しというか、そんな言葉をかけられ、

小さな声で「はい」と返事する彼の姿は、ことのほか小さく見えた。

3年前から参加するようになった地域行事で、最近は「よう頑張っちょる」を同じ自治会の方から声をかけられると彼から聞いた。

自分の気持ちを上手にコトバで伝えられない彼は、孤立感や孤独感を人一倍多く感じ、半ば「どうせ言っても聞いてくれない」という諦めをつねに感じていたのではないだろうか。

そんな彼が40代になって、自己肯定感を強く深く持つためには、私の毎日の言葉かけより、同じ地域で彼の成長を見守っていた隣人の「一言」の変化が心に響くことと信じている。

あだちまさし。