キャッチボール

11月最終日。今月、日に日に早くなる産卵時間をつかまえるのに苦心した。

日長が短くなる時期、朝の点灯時間を早めて、鶏の適切な活動時間をつくり、産卵を促す。2月くらいまで寒い朝の辛抱が続く。

こんな朝の忙しさが手伝ってか、Fさんからのショートメールの数が少しずつ増えてきた。

彼は7時に出勤して来るので、それまでに私がかなりの数を採卵し終えているわけだが、何となく夕暮れ時に家庭で孤独感を感じている様子だ。

鶏が一日、2個タマゴを産むわけではないが、朝の産卵ラッシュアワーは順序を決め、テキパキと採卵しないとタマゴの波に飲まれてしまう。

彼が、その「波」に飲まれないように、前倒しに仕事を進めるが、彼にとっては少し「プレッシャー」になる時期でもある。夏場に出来ない採卵以外の仕事を進めてくれれば良いと私は割り切っているが、何となく職場でも「申し訳なさ」を感じるのであろう。

昨年までは、この時期、早出をさせ、午前中の配達に出掛けると、だいたい8時半くらいに「もう駄目です」とメールがくる。

押したり引いたりしながら、お互いに頑張ってきたので、彼からのメールは出来るだけコマ目に返信するようにしている。というのも、私の方から「いつでも、どんなことでもメールしてエエよ」伝えているので。

19時ごろ彼からのメールが着信する。私がこの時間、どこに居て、何をしてるか彼は把握している。

「どうかしたか?」と短い返信をし、5分ほど待って返信がないので「何か気がかりなことでもあるか?」と再びメールを送った。

それから返信があり、彼の心に刺さっている「トゲ」が何となく把握でき、何度かメールのキャッチボールをポツポツする。

でも、こうだ。でも、ああじゃないか。というメールに返信しながら、最後に「それはあなたの考えすぎかもしれません。安心して下さい。それは私が神に誓って断言します」と返信して、今夜のキャッチボールを終えた。

島原での勤務時代、障害がある子どもさんと共に生活する家庭に多く触れる機会があった。

当時は若さもあり、自分が独身だったことも手伝ってか、今では考えられないストレートな意見をぶつけ、かなり迷惑な存在だったと思う。ただ、ストレートにぶつかることで、貴重な体験も数多くさせき、多くを学ばせていたと感謝している。

自分自身、子どもを授かり、家庭を持つ中で、様々な考え方の「子育て観」に、家内の話を通じて触れてきた。なんとなく、正解はどこにもないような。

そんな時、島原で出会った家族のカタチに照らし合わせながら、いつのときも、今、自分ができることを考えることが多かった。

メールでFさんの家庭への不満を感じ、時折、お母さんやお姉さんの話を伺ったこともある。

「もっとこうした方が・・・」という自分の考え方を、以前のようにストレートに伝えずに、深い干渉をなるべく避けて、彼の家族のあり方を6年ほど見守ってきた。

決して、家庭への深い干渉を恐れたわけでなく、私と彼は雇用関係にあり、私が果たすべき責任、彼が農園でやるべき役割の歯車がキチンと噛み合えば、彼が抱える問題の糸口が見つかると信じて。

明日、彼が元気に出勤してくれることを祈りながら、寝る。

あだちまさし。