伐採される竹を見ながら

農園のご近所に竹を伐採する業者が入り出して一ヶ月がたった。

仲良くお付き合いさせて頂いている60代の農家さんが先代から相続された2?の裏山に重機が入り、伐採した竹を大きなトラックが搬出している。

一ヶ月作業をして、やっと半分程度の伐採が終わったそうだ。

一年前に「竹を資源に変える」という業者の説明会があり、伐採を希望された。時間をかけて測量や業者との打ち合わせ済ませて、ようやく作業開始。

伐採と聞くとチェーンソーでブンブン倒していくかと思いきや、そう簡単にはいかないものである。

もともと、先代が杉を植林して財産とする予定が、時代の移り変わりと共に木材の値段が変わり、農家の働き手の価値観も変わった。

手付かずになった人工林が竹に占領され、10年前からはイノシシも出没するように。必死で守ってこられた水田の被害も深刻化してきている。

農業が好きで後継者として吉部に残られたわけで、山が荒れてゆく景色に一番心を痛めておられるのはご本人だろう。

子育て、親の介護をしながらの稲作だけでは生計が立てられず、兼業農家という選択をするしか方法がなかったはずだ。

幸い、先代が後継者の間伐を助けるために山道をつくっていたのと、土地に関する書類を整備されていたことで、他の伐採希望者より作業の取り掛かりがスムーズに進んだとお聞きした。

伐採されて運び出される竹を見ながら、自然と暮らすことを自分の事として深く考える。

2日前の投書欄に下関市在住の60代女性の記事があり、目の前の風景と重なった。

あだちまさし。

「好きな里山なのに」

先日、熊が鹿のわなに入ったと聞き驚いた。その4、5日前、隣家のクリの木のそばを熊が歩いていたと聞いていた。

夫はタヌキだろうと言うので安心していたら、現実に熊がいたのでびっくり。熊はこの数年、近隣の町で出没したことがあったが、我が家の近くに出てくるとは思いもしなかった。

翌朝、隣の奥さんと見に行った。初めて見る野生の熊は興奮し、鋭い手のツメで土を掘り、わなの柵にかみついて逃げ出そうと必死の様子だ。鹿のわなだけに暴れた勢いで逃げられそうに感じた。怖いので少し離れた所から見ていた。

わなの持ち主が県に早く来てくれるよう連絡し、県の要請で猟友会の人が殺処分し、調査のため持ち帰った。ツキノワグマの雄だった。

我が家の周辺は、山の獣が何でもいる野生の王国になったような気がする。生きるだめに食べ物を探し回って出没した熊の最後に考えさせられた。

私が小学生の時代から杉、ヒノキの植林が盛んになった。両親が県林の植樹作業に度々、出掛けていたことを覚えている。

雑木林が少なくなって今、杉、ヒノキ林は大きく育っても手入れする人がいなくなり、山は荒れている。全て人がしてきたことだ。

新緑に染まったきれいな山を見つめていたら、ため息が出る。里山で育ち、里山に嫁いだ。私が大好きな里山なのになぜか悲しい。

今年の新緑の山は、私の心に反して特別な色合いをしている。

下関市・農業S・67歳

(2018.6.3 毎日新聞 女の気持ち)