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葉わさび

吉部の山のテンカチから炭焼きさんが「葉わさび」を手土産に来園。
この炭焼きさん、もうすぐ古希を迎えられるが自分のことを「ボク」という。愛嬌ある独特の話し方で「葉わさび漬け」の作り方を伝授して下さった。

七十℃のお湯をかけ、百回振って、瓶にめんつゆと一緒に漬けるだけだが、お湯の温度など少し間違うと「グニャッとなって上手く起きんよ」と言う。ここでいう「起きる」とは、わさびのツンと鼻に抜けるような辛味が立たないということである。一緒に聞いていた農園のパートさんがチャレンジして、翌朝に完成したひと瓶をお裾分け頂いた。上手に起きた爽やかな辛味と旨味を白飯とともに堪能させて頂いた。

時々遊びに来て下る炭焼きさんとは十年来の付き合いになる。
よく日焼けした大きな体にTシャツと作業ズホン。短髪でおっとりした口調で語られるが、実は眼光がかなり鋭い。前職の立派な肩書は地元の人なら誰しも知っているが、初対面の人には「物好きの百姓」に見えるよう振舞っているふうにも感じる。

昔から、住まいのあるテンカチで庭イジリならぬ「山イジリ」に精を出されていたようで、葉わさびも「秘密基地」に、わさび田を作って栽培されているとの噂である。年の暮れに頂戴する自慢の「ゆず味噌」も絶品。鷹の爪で辛味が少し効かせてあるので、やはり飯の友には最高なのである。

退職して本格的に始められた製炭業も順調で、原料を伐採した後、どんぐりの苗木を植林していると聞いている。おそらく頭の中ではハッキリ十年後の山の姿がイメージされていることだろう。私がいつも刺激を受けるのは「大切な事に時間を使う」その仕事の姿勢である。

ちょっとした会話の中「それが自然の摂理じゃから」と、よく話される。
自然に逆らわず大切な事に時間を使うのが、ゆとりある豊かな生き方だと教えて下さっているようでもある。生産と納期ばかりに追われる私にとっては、ピリッと辛口の一言が、いつもありがたい。

2021.3.27 あだちまさし