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享受

手仕事上手なお客さまに、「蛍かご」を見せて頂きました。
昔ながらの手仕事の鮮やかと、柔らかい螺旋状と小麦色の艶が目を楽しませてくれます。吉部のほたる祭りに合わせて制作されていますが、地元のボランティアサークルの方々が、蛍の里で育つ子供たちに楽しんでもらいたいと願い、ワークショップを長年つづけてこられました。

一つのかごを作るのに六十本の麦わらが必要ですが、サークルの蛍かごづくりは、麦の栽培からはじまります。種をまき、麦ふみをし、かごづくりに夢中になる子供たちの笑顔を思い浮かべながら、大切に手作業で収穫されます。麦の品種は「六条大麦」が適しているそうで、独特の光沢がある風合いは、試行錯誤の結晶といえます。

蛍が舞う環境は、農業のもつ多面的機能と深く結びつきます。
山があるから川が生まれ、川からの水の流れが田畑を潤します。自然の循環から生まれたサークルの手仕事は、私たちにもわかりやすく自然を享受する心を教えてくれ、自分自身も、改めて農業に寄り添いながら仕事をすすめる大切さを感じます。大きな利益を得るために、規模を拡大してきた農業や畜産の難しさを日々感じていますので、小さな農業の持つ、自給や循環といった価値観を見直す動きが活発になる中、様々なことを考えるキッカケになります。

中国の古い教えには「農業は工業に如かず、工業は農業に如かず」とあります。
「如かず(しかず)」とは、「かなわない、及ばない」という意味です。また、ある思想家が社会を木に例えて「農は根、工は幹、商は枝」と書かれています。つまり、それぞれの役割が違うということが説かれてます。自然を生産への制約と考え、規模を拡大してきた農業や畜産は、自然を「めぐみ」の源泉として考え直す転換点に立っているように思えます。

来週末、コロナ禍の影響で中止になっていた「吉部の蛍まつり」が三年ぶりに開催されます。蛍かごの準備をされるサークルの方々の、蛍の舞う自然のなかで、ふつうに麦を育て、子供たちの笑顔をふうつに楽しむ、そんな自然に対する柔らかな視点に学ぶことは、とても有意義だと感じています。

2023.5.27 あだちまさし