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萌芽(ほうが)

鶏ふんの搬出作業は、私たちの仕事なかでも大切な作業です。
タマゴを生産する営みのコインの表と裏のような関係です。ですから、地域で堆肥を活用して下さる農家さんとは良い関係でありたいと願い続けています。

同じ地域で営みを続ける農家さんの息づかいを感じることは、私たちとっても大切な事です。米や野菜にも人間同様の「命」がある、自然があるから人は生きていける、という事をふだんの営みを通じて農家さんは身にしみて理解されています。そういう思いのそばで歩みを共にしたいと思うからです。

ひと山むこうのフルタニさんとは長いお付き合いになります。昨年末、自走式堆肥運搬車を購入されました。乳母車のようなクローラー式運搬車のバケットには三百キロの鶏ふんが入り、走りながら自動で散布する事ができますので、作業の省力化にかなりの力を発揮します。週に数回、農園を行き来し散布して下さり、新しい循環作業が加わったことを大変嬉しく感じています。

フルタニさんは七十代。稲作以外に木炭生産と椎茸の原木栽培を事業の柱にされています。来園するたびに、山での仕事の息づかいに触れる時間が私の糧になります。

いまは椎茸栽培の原木の準備が最盛期。木の切り出しや菌打ちに汗を流されます。毎年二千本ずつ更新され、原木に打ち込んだ菌から椎茸が生えるまで、およそ二年かかります。栽培される原木は十五年くらいで八千本になりました。

山から伐採したクヌギやコナラが原木や薪炭材になります。伐採後の山肌や、荒廃した竹林を開墾して苗木を増やしてこられました。また原木栽培の基本は「萌芽(ほうが)更新」といい、伐採した切株から萌芽する若木を適正管理すると、十年から十五年くらいで次の木に成長します。ひとつの切り株から二、三本に成長することから、この循環が整いつつあると良い顔をして話されます。

かつての里山の暮らしの中に未来の希望を見出されていることを少ない言葉から感じます。フルタニさんが整えつつあるクヌギやコナラが静かに深く根を張り、落ち葉が土を肥やします。自然の働きは、当然のことながら、地球温暖化防止にもつながります。ひと昔前の里山の常識を取り戻すことが大切だと感じています。

2024.2.26 あだちまさし