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待って成長させてくれる分校

【「すぐに手を貸してしまうか」「できるまで待つか」松原分校は「待って成長させてくれる学校」です。】学校のホームページにある保護者の声からの引用である。 松原分校は、隣接する小中学校に併設する「知的障害特別支援学級」だけで運営する分校で、統廃合が進むなか、このような形の分校は全国でここだけになったそうだ。

分校に伺いはじめたのは、お客さまのご家庭で難病を患い訪問学習を受けていた女の子が縁だったと記憶している。ずいぶん前のことになるが、ご家庭に訪問されていた先生がタマゴの注文を取りまとめて下さり、以来、毎週職員室へ配達に伺っている。

古い校舎に、一周二百メートルに満たないトラックがある小さなグランド。背景には赤崎神社の森の緑が目にやさしく、青空とのコントラストが映画のセットを見ているような雰囲気があり、気持ちがあたたかくなる。こんな素敵な分校だが、山陽小野田市民でもその存在を知る人はそう多くはない。

現在の在校生は小中学生あわせて十五名。配達の際に、わずかな時間だが学校生活を垣間見る機会がある。なかでも運動会の練習風景には思わず頬がゆるむ。一人ひとりが個性をのびのび発揮している姿には、先生方の心ある指導のもと「待って成長させてくれる」ゆっくりとした時間が流れ、見ている側にも不思議な安心感をあたえてくれる。

一人ひとりの時間が大事にされる分校だが、残念なことに、近い将来、閉校になるという。三年前より新入生の受け入れは停止され、在校生が卒業するまでが期限ではないかという話なのだ。いままで農園の周辺でも過疎や少子化で学校の統合や廃校に触れてきたが、分校関係者の方々の寂しさは容易に想像できる。

最近、包括的という意味で、仲間はずれにしないと理解される「インクルーシブ」という言葉をよく耳にする。まだまだ現状ではハードルが高そうだが、今後、教育現場でも主流になってくるようだ。

一人ひとりに光があたり、待って成長させてくれる場所がなくならないことを切に願いたい。

2022.10.27 あだちまさし