月別アーカイブ: 2018年9月

秋思

ハッピーマンデーの夜。数日前、大きなスーツケースを抱えて出かけた長男が未だに帰宅せず。金曜日の夜に宇部空港から飛び立ち連休を満喫中だ。帰りを待ちながら、自分の連休の思い出にボンヤリふける。

いまの生活に「慣れた」というと多少強がりになるかもしれない。休日の家族サービスとは無縁で子どもたちには随分と迷惑をかけた。知らぬ間に大きく成長してしまい後ろめたさと、自分の甲斐性のなさに時折、嫌気がさす。

3人の子どもたちは、こんな父親に早々から愛想をつかし、スポーツにのめり込んだ。長男、次男はサッカー。長女はテニス。サッカーの練習や試合は時々足を運び、息子たちがボールを蹴る姿を見たが、長女がプレーをする姿は一度も見たことがない。これが後ろめたさに一層拍車をかける。

夕食時に部活や試合の様子を話してくれるが、私にはスポーツに打ち込んだ経験がなくアドバイスする言葉が見当たらないので、ただ黙って耳を傾ける。中学生になるとスポーツを語る内容が深くなり、話についていけてないのが正直なところ。それに加え、子どもたちを少しは唸らせたいという「父親の変なプライド」が邪魔をして口を開くのを躊躇してしまうことも多々あるからだ。

こんな気持ちを抱え、子どもたちが未読であろうスポーツ記事を新聞やネットで拾い読みし、家族の知らないところで予備知識を仕入れることに心血を注ぐ。父親としての涙ぐましい努力・・・と、私はそう思っている。

そんな中、最近、気になっているのが全米OPを制覇した大阪なおみ選手。純粋無垢で愛嬌あるコメントの中には刺激が多くある。昨年10月、彼女が自分の弱さついて語っている記事が目にとまった。

「私はテニスをするうえでは自分に厳しすぎるって指摘されるんです。試合中、もっといいプレーが出来たのに、ってイライラしてしまう。気分を切り替えてプレーした方がいいんだよってアドバイスもらっています」

テニスでは、こと試合中に限って言えば自分に厳しいことはプラスに働くとは限らないそうだ。くよくよしていると次のポイントに影響してしまうからだ。全米OPの決勝戦。20歳の彼女がブーイング渦巻くコートでも終始落ち着き、自分のプレーに集中する姿は1年間の「心の成長」の証だろうと感動した。

私も秋思に浸ってばかりではいけないと眠たい目をこする。

あだちまさし。

心に聴診器をあてる

終日、強い北風が吹いた。風見鶏が勢いよく回り、Tシャツ一枚では肌寒かった。先週の降雨で貯水の心配が消えて、季節が一気にすすむ。

季節の移り変わりが急激に訪れるのは今年に始まったことではないので、自分の力ではどうにも出来ないことは静かに受け止め、自然の恵みに感謝して毎日を送りたい。

今年、予想外の暑さで大きく生産を落とした。予約がこなせるか不安な毎日を送りながら、少しでも早く産卵低下を把握しようと鶏舎に入る時間を増やした。

もともと余るほどの時間がないわけで、何の時間を削り、どう時間を捻出するか、日々考えながら、焦りを抑えて夕方にゆっくり各鶏舎をまわる。

自分のリズムは未だ掴めずにいるが、鶏の息遣いを感じ、午前中では気付けない新しい発見がいくつかあった。

このことは時間が経つにつれ農園にとってプラスになってくるはずだが、私が鶏舎に入る時間を増やしたことがFさんにとってはプレッシャーになっているようだ。

私が行う確認作業を「荒探し」に感じて心が締め付けられるようである。8月中旬からショートメールを送ってくる回数が増えてきたのは心が不安定な表れからだろう。

彼が残してしまう仕事があるのは以前から知っていた。そこは咎めずに付き合ってきたので、いまさら指摘するつもりはなかった。

ただ、そこに居心地の悪さを感じるということは痛い脛があるということだろう。彼のこういう正直さは実を言うと嫌いではない。

鶏舎の中で鶏と向き合うものとして、よく理解できるし、多分に私もそういった弱さを持っているからだろう。

何度も着信するショートメールに丁寧に返信をする。彼の心に聴診器をあてるように言葉を選びながら聞き取り作業をし、彼が感じる「嫌な仕事」に共に向き合っていく。

同じ鶏舎で仕事をする彼の「嫌」と感じることは、私にとっても悩みの種でもある。「嫌」に向き合うのはお互いに辛い。

上手な言葉を使って彼の気持ちを搾取しないように心を配りながらメールのやりとり。出来る限り彼の気持ちを汲み上げて自分の弱さにも向き合いたい。

きっと大きな収穫があると信じているから。

あだちまさし。