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受け身

朝夕は秋になった。といっても、ほんの数日前からである。
以前は、三十度を越える気温が予想されると、家畜保健所から鶏の飼育に注意するよう通知が入っていたが、いつ頃からかなくなった。温暖化による猛暑の夏は常態化している。

昨年同様、鶏が最も苦手とする高温多湿の梅雨が極端に短かったことが好影響だったのか、七月下旬までは順調すぎるぐらいの産卵率だったが、食欲が低下する夏場に高産卵を続けるのは「産み疲れ」引き起こす原因となる。熱帯夜が数日続いたお盆あたりから、一気に産卵が下降した。高温が定着した夏を乗り切るため、鶏の体質は日進月歩の品種改良がされているが、あるがままの平飼い飼育には適さないかもしれない。冷房で室温が一定に保たれる鶏舎なら別だが。

盆と正月は、鶏舎の中で働く二人にあたえる休暇を中心に仕事をシフトする。一カ月前ぐらいから別のパートさんに、ご家庭の予定などを聞き、配達などの予定と擦り合わせながら、ささやかな休暇を出す。自分自身の仕事も幾分かは考慮するが八月初旬の週末はハードな予定だった。

八月七日。一番の正念場となる日曜日。パートさんの体調にアクシデントがあり、急遽ひとり仕事となる。連絡を受けた早朝、一瞬のあいだ頭が真っ白になったが、すぐに気持ちを切り替えた。高温で産卵が低下しているとはいえ、鶏の羽数が少なくなったり、農場が狭くなったりすることはない。必然的に、動線と労働時間が限度いっぱいまで伸びるのである。ガッツリと受け身になった日曜日のひとり仕事。農学博士・宇根豊氏の言葉が脳裏をよぎる。

『感謝する気持ちは「受け身」の態度からしか生まれません。自分だけの力ではできないと自覚した時に、助けてくれる相手に感謝の気持ちを届けたくなります』

〈草木に花を咲かせ、実をつけることは人の力ではできない〉という、天地自然のはたらきに感謝する視点を説明した氏の言葉に、自分の身も心も重ねる。あらためてタマゴは自分の力でつくることはできないし、日々助けてくれる人手の有難さが身に沁みる。受け身になって思いを改める、そんな真夏の汗を流した。

2022.08.27 あだちまさし