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つっぺ

「つっぺじゃあいけんけぇね…」
そう呟きながら来園するのは、毎週水曜日と日曜日に開かれる朝市「おいでませ吉部」のオカダのカアチャン。朝市の前日に販売するタマゴを受けとりに来られる。

『つっぺ』とは、山口の方言で〈引き分け〉という意味で、商売でいうと差し引きゼロ。つまり儲けがないと自虐的に呟くカアチャンだが、そこに悲壮感はなく、いつも明るく元気の塊のような女性である。

「おいでませ吉部」は旧JA吉部の売店を借り受けて開かれる生産者直売所。農家さんが持ち寄った農産物、うどん等の軽食コーナーと手づくりの惣菜が調理、販売されている。賑わいは開店直後の朝6時ごろがピークで持ち寄られた農産品は早々に売り切れ、あとはお昼すぎまで軽食コーナーでぽつぽつと近隣の住民らが語らう田舎のオアシスだ。

毎月第一水曜日に販売される、手づくりの「吉部の米まんじゅう」はなかなかの逸品。原料は自慢の吉部米を天日干しのパウダー状にした米粉とかるかん粉、あと長芋に私たちのタマゴの卵白も使用していただいている。無添加で手づくりされる饅頭は『ふんわり、ふかふか、もちもち、しっとり』。大量生産では決して出せない「ぬくもり」の味がする。

直売所の厨房は五人の主婦で切り盛りされ、毎回、とにかく明るく賑やかで、私が一番年下というオカダのカアチャンは昭和二五年生まれ。最年長は八十歳を越えているが、みんなが口を揃えて「楽しい」という。

最近では、スーパーの生産者直売コーナーも当たり前となってきたが、「おいでませ吉部」には小さな朝市ながら、直売の最大の売りである「対面性」がしっかりと地域に根付いている。お客さまに喜んでもらえ、それを喜びとして農業生産や物づくりに励み、直売所を運営する。この好循環は大いに学ぶべきものがあるように感じている。

コロナ禍の混乱も「つっぺじゃけど楽しい」で乗り切るカアチャンたちはたくましい。

2020.10.26 あだちまさし