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無為

ずいぶん前から「PHP」愛読しています。
心が元気になる雑誌で、値段もサイズもお手頃です。発売日にコンビニで買い求めていますが、はじめて手にしたのは、店頭で表紙の特集テーマが目にとまり購入したのが、きっかけだったように記憶しています。ですから、PHP研究所が松下幸之助の崇高な理念のもと設立されたと知ったのは、しばらく経ってのことでした。

テーマに沿っての著名人などの寄稿に、専門家からのアドバイスがあります。また、毎月の連載がいくつかありますが、ダウン症の書家、金澤翔子さんとお母さまの泰子さんの連載「魂の筆跡」は何度か読み返します。翔子さんの豪快な書に、泰子さんが文を添えられますが、障害がある我が子の母として、ときには書の師匠の視点から客観的に書かれる文章に共感することが多々あります。

今月の書は「無為」。あれだけ立派な書を書かれる翔子さんは、硬質の細字が苦手。それを歎きつつ、最近、彼女が鉛筆で書き始めた「般若心経」の様子に考察されます。一般的に、右脳は直感的、感覚的に優れ、左脳は分析的、論理的に優れていると言われます。そのようなことから、母親の視点で翔子さんの「左脳」の弱さを感じつつも、寸暇を惜しんで細字の練習する姿を、書の師匠として見守られます。

『何も求めずただ書く無為の作業に、左脳の強い人は耐えられないだろう。しかし、よーく見ると、遅々として気の遠くなるような時間経過の中で、少しずつ洗練されてきて、拙いけれど鉛筆の繊細な線質が素敵だ。まるで無駄と思えるけれど、無駄ではないと直向き(ひたむき)な姿を見て思う。』

鉛筆を握って練習に没頭する翔子さんの姿が目に浮かぶようで、泰子さんの視点に強く共感します。私も障害がある人と関わりながら、立場上、仕事の指示をすることはりますが、その「直向きさ」に心を動かされたことは少なくありません。

年々、厳しくなる夏の暑さに心を忘れそうになりますが、共に働く仲間の直向きさにふれる度に心を改め、いまは亡き恩師が「障害者に学ぶ」と、度々おっしゃっていたのを思い出します。この「心の改まり」が「学ぶ」ということではないか、そう今になって思います。

2023.8.28 あだちまさし