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以心伝心

先日、ケーキから洋菓子、和菓子とお菓子なら何でも揃うフランチャイズ店に農園で働く二人と出掛けた。ちょっとした気分転換をかねてショッピング。

このお店、安価でたくさんの品揃えがあり、童話に出てくる「お菓子の国」のような店内が目を楽しませてくれる。二人を誘って度々利用するのは、いろいろな商品を手に取って、興味津々に買い物をする時に、農園では見せない表情が見られるのが嬉しいから。今回は、男性と私はホワイトデーの買い物。女性は自分へのご褒美。

二人が思い思いの商品をかごに入れ、レジにすすむ様子を店内の少し離れたところからそっと見届ける。店員がマニュアルどおりの対応で矢継ぎ早に話しかける。二人ともコミュニケーションにハンディを抱えるが、男性は首を縦や横に振りながら、聴覚に障害がある女性は身振り手振りで受け答えをしながら会計を済ませている。二人が無事に会計する姿を確認して、私もシュークリームの詰め合わせを二つ買い求める。駐車場で「お母さんに」と小指を立てながら伝えて、ご家庭へのお土産を各々に手渡し店を後にした。

昨年も同じ季節に同様の買い物で来店した。男性が大きく心のバランスを崩した時期でもあり、明るい店内でどことなく三人とも心に暗さを抱えながらだったことを思い出すと、お互いによく頑張ったなあとしみじみ。あれからちょうど一年になる。

昨年、一年で一番寒さが厳しい頃に、彼が心のバランスを崩し休みがちになった。私も仕事量が大幅に増え、冷静さを保つのがやっとのなかで、考えられる原因をさぐり出来る限りの言葉かけをしたりもした。仕事の負担が増えたのは彼女も同様で、彼に励ましの手紙を何度か書いてくれた。彼の回復を祈る気持ちは私と同じだっただろう。

出来る限りの時間をひねり出した。園内での仕事を通じて共感できる時間を増やし、改めて感じたのは、二人が私の意を汲みとり、柔軟に進めていた小さな仕事を見落としがちだったこと。行き届いてないことに目を奪われ、出来たことの評価が疎かになっていないか。そのことを当たり前で済まさないよう自分の心の感度を磨くことに注力した。

一年経ち、以前と変わらない日常に戻りつつあるなか、今に思うのは、彼の落ち込みの原因以前に、一番油断ならないのは自分の心だということ。常に誠意を持って丁寧に事を進めるには自分を見直すことがまず先だったように思う。

2022.03.27 あだちまさし