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鶏供養

農園の鶏は寿命をまっとうすることはありません。
家畜といわれる牛や豚、鶏は、私たちの人間の命を支える経済動物です。ずっと昔からそうなんですが、スーパーに並んでいるパックに入ったお肉から、そのことを想像することは少ないかもしれません。

私たちのようにタマゴを生産、販売する業者が飼育する鶏は「採卵鶏」といい、食肉として加工されるブロイラーに対し、レイヤーといわれたりします。日本全国の飼養羽数は一億三千万羽くらいです。近年、飼育個数は減少傾向ですが、飼養羽数はおおむね変わりありません。これは、技術の進歩で養鶏場が巨大化していることを意味し、農園のように一万羽に満たない養鶏場は小規模に分類されます。

採卵鶏は産卵率の低下にともない淘汰され、主に加工原料として食肉処理されます。なかには、「かしわ」とか「親鶏」と表示され販売されるものもありますが、近隣で最近みかけなくなったのは、下関にあった食肉処理場がなくなってからだと思います。

採卵鶏の出口である食肉処理場は養鶏場の巨大化にともない苦境に立たされています。養鶏場から出荷されるロットの羽数が膨大で、処理羽数の許容ができなくなったり、鶏卵相場が高止まりする時期などは出し渋りで仕事が止まったりと、年間を通じてコンスタントな仕事をすることが大変むずかしいのが原因だと感じます。十数年前に廃業された下関にある食肉処理場には廃業の日まで出入りさせて頂き、その辛苦を目の当たりにしました。

農園で仕事をする前、二十日間ほど下関の食肉処理場で作業実習をしました。包丁での鶏の捌(さば)き方をひと通り教えて頂いた経験は今の糧になっています。一日の処理羽数が千羽に満たない処理場でしたが、無駄のない丁寧な仕事には高い評価がありましたので、廃業に追い込まれる不条理には、いまでも胸が痛みます。

実習に行ったのが縁で、繁忙期前の十一月末に行われる「鶏供養」に毎年招待されました。供養の後の宴席で、酒を酌み交わしながら、従業員のみなさんの懐の深さに触れたことと、冷たい鶏を処理する手ざわりの実感は、私が命に関わる仕事の土台となっています。

2023.11.27 あだちまさし