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ヒートストレス

暑さが落ち着くという「処暑」が過ぎた。日長は確実に短くなっているので、朝夕に秋の虫から涼しさを感じるが、残暑というには厳しすぎる暑さが続いている。

鶏は様々な外的ストレスから調子を落とす。もの言わぬ鶏の変化は日頃の鶏舎での観察を通じての発見であり、また産卵成績から体調を感じとるのが常である。とりわけ、猛暑の夏は鶏にとって大きな負担となり、産卵率を低下させる引き金となる。

人間より平均体温が5度前後高く、毛皮のコートを脱ぐことができない鶏にとって、猛暑の夏は正念場。食欲不振から生命を維持する最低限の餌を食べるのが精一杯で、排卵活動である産卵までエネルギーがまわらなくなり、動物本能から産卵より命を優先することから産卵率が落ちるのだ。

私たちは発汗によって体温を一定に調整しているが、鶏には汗腺がなく汗をかいて体温を下げることができない。そのため、体の外と内から体温を下げるのが、鶏が命を守るための本来の姿である。鶏たちは涼を求めて、木陰や鶏舎内で風通しの良い日陰に移動して出来るだけ体温を上げない努力をする。体に空気があたるように羽根を広げて風通しを良くし、地面に穴を掘って冷たい土に触れて外から体温を下げる工夫をする。

体の内側から体温を下げる方法としては、多く水分を摂取することに加え、熱が体にこもらないように、呼吸量を増やすことで体外へ放出する。犬でもよく見られるような「ハァハァ」と浅く早い呼吸と、鳥類特有の「パンティング」と呼ばれるあえぎ声を出しながら空気を大きく吐き出す姿が多くみられるようになる。

このパンティングの鳴き声が独特で、ふだんは「クゥクゥ」とか「コッコッ」と静かに鳴きながら、穏やかな時間が流れる午後の昼下がりだが、気温が30度を超えてくると「ガァガァ」とか「カァー」という悲痛な鳴き声を出し、その響きには胸が痛む。

年々、夏の暑さは想定範囲を超えてくるが、夏が一生続くことはない。猛暑を乗り越えた鶏は何かしら大切な力を蓄えてくれるはずだ、そう信じる心だけは失いたくないと思う。私たちにとっても、あと少しの辛抱…。

2020.08.26 あだちまさし