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まなざし

『渋皮煮』をお客さまから頂きました。今年は秋の恵みがいずれも不作のなか、貴重な厚保(あつ)の栗を親戚から取り寄せてつくられたようで、大きく粒の揃った渋皮煮のやさしい甘さに心があたたまりました。

猛暑が影響したのか、栗をはじめ山の恵みの少なさをよく耳にします。とりわけ、最近すっかりご無沙汰だったイノシシの爪痕を散見するようになり、冬を乗り越えるために脂肪を蓄えたいイノシシの必死の形相が目に浮かびます。鶏も同様で、気候がおだやかになると日長から季節を感じ取り、夏場に落ちた脂肪を蓄えるべく食欲が増し、産卵率も回復してきました。

体力が回復してくると、産卵が上向きになり、産卵時間も日増しに早くなってきます。私たちも朝の仕事のリズムを取り戻すのに苦心しますが、産卵時間にバラつきがなく、気持ちよく産卵するのは鶏の調子が良く整っている証といわれています。ひとつひとつのタマゴを割って確認することが出来ませんが、これから『旬』にむかうタマゴの味も良くなっていると信じています。

園内で働く私たちの仕事も増量しますが、いっしょに働く二人はコミュニケーションに難しさを抱えていますので少し配慮が必要です。午前中の仕事は、鶏のペースにあわせてオーバーワークになりがちなので、彼らの仕事ぶりに心を寄り添わせて、言葉にならない声に耳をかたむけるよう、忙しくても立ち止まる勇気を持ちたいと心がけています。

ハンディを持つ二人は自分の気持ちを言葉にすることは苦手としていますが、人の気持ちを感じ取るアンテナは敏感で、鋭い感性を持っているように思います。私のうわべだけの言葉かけや、心の中にある上から目線を感じ取る鋭さがありますので、私自信の目の高さに間違いがないか、素直な心で声掛けができるか、二人との心の会話は私の姿勢を正してくれるように感じています。

以前、島原の福祉施設で恩師の原先生と、彼らが持つ感性の鋭さについて、よく語ったことを思い出します。先生の『まなざし』には、長年、その感性に寄り添われた人間力を裏付けするあたたかさと、やさしさがありました。 いまでも思い出すことしばしばです。

2023.10.28 あだちまさし