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葉もれび

新緑がきらきら光る。農園の近所にある筍加工場が出荷のピークを迎えたニュースが、今年もローカル紙の紙面を飾った。近隣の農家さんもイノシシと競争で掘り起こし、加工場へ持ち込んでいると聞く。例年、農園でもお裾分けを頂くが、なかでも上小野のシローさんが運んで下さる筍が新鮮で旨い。一年に一度、田植え前に、圃場に施す鶏ふんを取りに来園され、そのお礼というカタチで持ってこられるのだ。

よく手入れの行き届いた、ある方の竹林で掘り出してくると得意気に話される。そのある方とは農園にも縁が深い方で、上小野で稲作を営みながら、趣味と実益を兼ねて山仕事に精を出される地域の顔役だったが、残念ながら昨年お亡くなりになったと風の噂で聞いている。シローさんは長年、その山仕事の手伝いされていた。

適度に日照が届くよう竹林を間伐し、掘り起こした筍を持ち出しやすいよう山道も整えてあるそうだ。「傘をさして歩ける程度」それぐらいの間隔で、適度に竹を間引くのがポイントだと聞いたことがある。ゆらゆらと竹が静かに揺れて、時折、葉もれびが差し込む竹林は美しい。

シローさんも寄る年波には勝てず、袋詰めをした鶏ふんを運搬するのに少し時間がかかるようになった。足どりも重いようで心配もしたが、数日後に筍を持って来られる姿は例年通り。軽トラの荷台に乗せた、大小さまざまな朝採り筍を「お好きなだけどうぞ」という表情は得意気にきらきらと光っている。

山の仕事というのは、すぐに結果が報われるものではない。何年何十年と代々の土地を、権利を主張するのではなく、黙々と義務を果たしてこられた。その副産物である筍を今年も美味しくいただくことができた。

解剖学者の養老孟司さんが、日本の農業がもたらした恵み、それを守るために人々はどう行動すべきか、とのインタビューで答えた冒頭と、シローさんが意気揚々と帰られる後姿が重なった。

『農業の担い手は年寄りばかりってことになっていますが、農業をやっている年寄りが長生きしてるってことでしょ。なぜ誰もそう言わないんですかね。日常生活と体の動きとを結び付ければいいんですよ。農業のように。』

2022.04.27 あだちまさし