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愛ずる

連日、タマゴについて報道などで取沙汰されています。価格高騰、品薄という報道に触れ、多くのお客さまからご心配やお気遣いをいただき、ありがたく感じています。

昨年から押し寄せる物価高の波が直撃しています。とりわけ飼料につきましては、円安、原油高、戦争が重なり、上昇傾向に歯止めがきかない状況です。一方、年明けからの「品薄」による価格の押上げは、需要に対して供給が減少しているため。その原因は鳥インフルエンザ感染、その蔓延防止措置で多くの鶏を殺処分したためです。その数は約千四百万羽に上り、同じ業界に身をおいていますので絶えず心が締め付けられます。いずれも影響も受けていますが、主に飼料高騰が私たちを圧迫しています。

なぜトウモロコシを輸入に依存しているか。鳥インフルの発生や感染原因は別にして、なぜ膨大な数を飼育する巨大な養鶏場が必要なのか。価格の優等生として、大量生産するための歪みが露呈しつつあると思います。簡単には表現できないですが、様々な角度で、いのちを支える食の本質を見つめ直すことが大切ではないでしょうか。

【「本質を見る」ということ、「時間をかけて関わり合う」ということくらい、今の時代に欠けているものはないかもしれません。】と、生命誌研究館の名誉館長、中村桂子先生が著書で述べられています。長年のヒトゲノム研究の成果「ヒトもアリも同じゲノムでできている」という事実を踏まえ、いのちを大切にする視点は、心を広く豊かにしてくれます。

中村先生は、生きものに向き合う態度として「愛ずる【めずる】」という言葉を大切にされています。この言葉は、平安時代のお姫さまの話『蟲愛ずる姫君』から。毛虫をよく見ていると懸命に生きている姿がとても可愛くみえる、つまり「愛ずる」は表面の美しさに左右されるのではなく、時間をかけて本質を見ることから生まれる愛情と説明されています。

タマゴを生産していますと、今まで少しずつ歪んできた難しい問題の壁に当たることが多くあります。私たちと深く関わりがある農のあり方も含め、困難な状況を許容しつつも、本質を見つめ直しながら進んでいくのに、愛ずるという視点にヒントがあるのではないか、そう感じています。

2023.2.26 あだちまさし