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命を食に変える

猟師が設置した箱罠のフタが落ち、大きな猪が御用となった。

体重80キロ、繁殖期の肥えたメス。これぐらいの大きさになると人間を威嚇して暴れるとガシャンガシャンと罠が軋み壊れそうで近寄り難い。

日頃、大きく口を開けて存在感がある箱罠だが、それが小さく見えるほどの大きな猪に私の鼻息も荒くなり、体の芯がグッと熱くなる。

一昨年の秋に罠を設置してから25頭目。昨年、柿の実が落ち始める時期に小物が一気に頭数を稼ぎ、今回が一番の大物だ。

農園の周辺を荒らされる頻度と範囲が多くなり、以前は猟師に任せきりの捕獲だったが積極的に協力するようになった。とはいえ、私に出来ることは早朝に確認した足あとや荒らされた場所から行動範囲を進言するぐらいの子供の使い程度だが。

以前より、猪の行動を深く考察するようになり、私の心境にも多少の変化がある。猪に荒らされて苛立ちや落胆するだけだった感情に「哀れむ」という感情が混じるようになった。

人が手を加えた自然の影響で腹を満たすことが出来ない猪を哀れむ気持ちと、天敵がない猪の頭数バランスを取るには人が捕獲するしか方法がないという現実。

自然と隣り合わせに農園を営んでいるので、共存するには、半ば諦めのような「開き直り」と「小さな覚悟」が心の中に生まれた。

本来、野山を駆け回る猪は「大地の豊かさ」の象徴のような動物で、昔から人の命を支えてきた。そして、全ての食べ物は生き物の命であり、それを恵みに変えるには、常に人の営みがある。

猟師の到着を待つ捕獲された大きな猪を前にして、命を食に変える尊さと食べることへの責任を考えた。

2019.02.20 あだちまさし