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心を溶かす

先月から今月半ばまで、パート勤務のYさんがお孫さんを同伴で出勤されました。お孫さんのサエちゃんは小学一年生。しっかりしたまなざしが印象的な女の子です。

先月、梅雨が明けて夏本番を迎える頃にYさんから電話がありました。「緊急事態です!」と前置きしたうえで、ちょっとした事情から広島に住む息子さん夫婦の長女サエちゃんを一カ月ほど預かることになったことの相談です。鶏の命の営みの上での仕事ですから、パート勤務のYさんも欠勤には気を使って下さります。

最近の夏の暑さは予想をはるかに超えてきます。鶏の産卵低下も予測困難な時期に差し掛かり、加えて、長引く暑さに回復目処を見きわめるのにも頭を痛めます。ちょうど、お盆休暇の段取りも重なり、欠員が出ると仕事に支障がきたしますので、お孫さん同伴の出勤を提案し、時間短縮で勤務してもらうことにしました。

淡い期待もありました。サエちゃんの存在が職場に化学反応を起こしてくれるような。農園で働く障害がある二人は、いつもと違う柔らかい表情で見せてくれたのは想定内。サエちゃんの素直で先入観のない真っすぐなまなざしは、お互いに心を溶かすには十分すぎました。とりわけ、聴覚障害があるミユキさんの一挙手一投足がサエちゃんには気になります。おそらく生まれてはじめて聴覚障害を間近で知ったのでしょう。

何度か同伴勤務を重ねた日に、ミユキさんがサエちゃんにレターセットをプレゼントしました。キョトンとした表情のサエちゃんの後ろからYさんが意外なプレゼントに驚いて大きなゼスチャーでお礼を言っています。私にとっては、ミユキさんのプレゼントより、大きな喜びをみせたYさんの様子が新鮮で嬉しく感じました。

私も含めてですが、障害がある人を前にすると、何かをしなくてはいけないような気になりがちです。時にそれは、上からの目線であったり、本人の意に添わない、ひとりよがりな認識の「歪み」が、しばしばあるように思います。お互いの距離が近ければ簡単に心が開けることにも、認識の歪みが人間関係の距離を作っている場合もあるかもしれません。

サエちゃんの素直で先入観のない真っすぐなまなざしに、心を溶かして、心を開く術を見たような気がします。

2024.8.28 あだちまさし