日別アーカイブ: 2018年9月10日

心に聴診器をあてる

終日、強い北風が吹いた。風見鶏が勢いよく回り、Tシャツ一枚では肌寒かった。先週の降雨で貯水の心配が消えて、季節が一気にすすむ。

季節の移り変わりが急激に訪れるのは今年に始まったことではないので、自分の力ではどうにも出来ないことは静かに受け止め、自然の恵みに感謝して毎日を送りたい。

今年、予想外の暑さで大きく生産を落とした。予約がこなせるか不安な毎日を送りながら、少しでも早く産卵低下を把握しようと鶏舎に入る時間を増やした。

もともと余るほどの時間がないわけで、何の時間を削り、どう時間を捻出するか、日々考えながら、焦りを抑えて夕方にゆっくり各鶏舎をまわる。

自分のリズムは未だ掴めずにいるが、鶏の息遣いを感じ、午前中では気付けない新しい発見がいくつかあった。

このことは時間が経つにつれ農園にとってプラスになってくるはずだが、私が鶏舎に入る時間を増やしたことがFさんにとってはプレッシャーになっているようだ。

私が行う確認作業を「荒探し」に感じて心が締め付けられるようである。8月中旬からショートメールを送ってくる回数が増えてきたのは心が不安定な表れからだろう。

彼が残してしまう仕事があるのは以前から知っていた。そこは咎めずに付き合ってきたので、いまさら指摘するつもりはなかった。

ただ、そこに居心地の悪さを感じるということは痛い脛があるということだろう。彼のこういう正直さは実を言うと嫌いではない。

鶏舎の中で鶏と向き合うものとして、よく理解できるし、多分に私もそういった弱さを持っているからだろう。

何度も着信するショートメールに丁寧に返信をする。彼の心に聴診器をあてるように言葉を選びながら聞き取り作業をし、彼が感じる「嫌な仕事」に共に向き合っていく。

同じ鶏舎で仕事をする彼の「嫌」と感じることは、私にとっても悩みの種でもある。「嫌」に向き合うのはお互いに辛い。

上手な言葉を使って彼の気持ちを搾取しないように心を配りながらメールのやりとり。出来る限り彼の気持ちを汲み上げて自分の弱さにも向き合いたい。

きっと大きな収穫があると信じているから。

あだちまさし。