両輪

『穀雨【こくう】』この時期に降る雨は作物を育てる田畑を潤し、恵みをもたらすという。田植え前、農園周辺の風景が次第に賑やかになってきた。

年明けから適齢期に差し掛かった鶏の出荷が遅れ気味だ。堆肥の搬出が思うように進まなかったが、農繁期を控える農家さんとスケジュールをすり合わせ、何とか希望された量を急ピッチで搬出することが出来た。

一番多くの堆肥を施肥して下さるお茶農家さんは一番茶の収穫を控え、毎年三月から五月の間は受け取れないため、それに入れ替わるように稲作農家さん等が来園される。以前は、地域で仲介役をして下さる方が、各々の農家さんとの調整や運搬を肩代わりして下さっていたが、高齢化の影響で頼りにしていた方々が引退され、徐々に農家さんの顔ぶれも変わってきた。

全ての農家さんとの搬出の打ち合わせは私の仕事となり、仕事の合間を縫うように毎月数トンの袋詰めをし、天候や圃場の様子を想像しながら受け渡しの調整をする苦労は増えた。一方で、同じ地域で「命を育む」方々の息づかいを感じながらのやり取りには喜びもあり、着実に自分の糧となってきたように思う。

作物が必要とする窒素分を補うために化成肥料を使うのが主流となるなか、あえて、農園の堆肥を土づくりに役立てて下さる農家さんの存在は心強く、ありがたい限りである。

私たちが袋詰めで流した汗と同じ量の汗を流し、土づくりに堆肥を役立てて下さる農家さんには、効率だけを追い求めない作物への眼差しを感じる。また、時間と体力を使って土づくりをされる農家さんとの繋がりには、何かを生み出す「きっかけ」があると信じている。

同じ地域で農業を営む方々と足並みを揃え、環境と共生することは営みを続けていく上での理想の姿だ。たまごをお客さまへお届けして喜んで頂くことと、堆肥を利用して下さる農家さんと収穫の喜びを分かち合うことは、私たちが進んでいく上での「車の両輪」である。

2021.4.20 あだちまさし