ならわし

季節を早送りしているかのような梅雨入り。「例年より」や「記録的」という言葉が当たり前となってきた気候変動の今日このごろである。

吉部八幡宮の参道を突き当り、西側の山道を登っていく地域を「伊佐地」という。伊佐に向かって伸びる山道の頂上付近にお客さまがあり、毎週土曜日に急こう配の坂道を上る。山の斜面には一面に整備された水田が広がり、農繁期はきれいに畔草が刈られ整然と並ぶ田園風景はとても美しい。

先週末、梅雨の晴れ間を利用して田植えが盛んに行われていた。「初日の出が居間のコタツから拝める」というお客さまご自慢の自宅。縁側でタマゴの受け渡しをしながら、眼下の田植え作業が隅々まで一望できる。

我が家の飯米も近隣地域で百姓を営む友人から購入している。足繁く農園に堆肥を取りに来てくれる彼は新規就農者で、八年前から吉部で農業に従事している地域の貴重な人材だ。

水田に水を引く関係上、高い場所から順番に田植えがはじまる。品種も早生に適しているコシヒカリからはじまり、田植え時期をずらしながら、低い場所にむかって品種が晩生のヒノヒカリになるのが「ならわし」だと、彼から教わった。昭和の終わりから平成にかけて基盤整備事業が行われ、どこの水田にもトラクターなど農業機械が入れるようになったが、それ以前は、斜面に並ぶ棚田で農作業は随分と苦労が多かっただろうと語る。

同じ地域に異業種から新規就農した同世代の友人が数人いる。年々厳しくなる気象条件のなか、営農技術と売り上げを両立して向上させる難しさを聞かせてもらう。また、新たに地域へ参入し、先輩農家さんとの人間関係で一喜一憂している姿も目の当たりにしている。

担い手の減少と高齢化が加速する農業の現場では、デジタルでスマートな技術が求められている。一方で、自然の働きと先人の苦労に寄り添い、「ならわし」を守りながら引き継いでいく必要もあるのだろう。日々奮闘する農家さんの姿に学ばせてもらっている。

2021.5.25 あだちまさし