地域に根をはる

1億8195万羽。最新の畜産統計による国内の採卵鶏の総羽数だ。前年比で3%増加している。年々、養鶏場が減少するのに対し、飼育規模の大型化が加速している。全体のうち10万羽以上の養鶏場が8割を占める。その要因は定かだが、あえて触れないでおく。

養鶏には孵卵・育雛・採卵・食肉処理の流れがある。鶏卵を生産するには不可欠な連携で、一見すると工業的だが「命と鮮度」を無駄にしないための流れ作業になっているが。自分たちの利益だけで採卵だけが大型化することで前後の流れを悪化させている。

特に採卵鶏専用の食肉処理場に大きな負担がかかる。一度に押し寄せる廃鶏の羽数も膨大になり、現場で働く人たちの苦労は増すばかりで、「働き方改革」という聞こえが良い言葉が人手不足に追い討ちをかけている。

私たちは「新鮮・安全」をモットーに独自のルートでタマゴを販売しているが、こうした大型化の流れに押し潰されないように気を使うのが常に悩みの種になっている。少し暗い話になった。

最近、この大型化の流れに難渋する一方で、平飼い特有である「糞」が好循環の明るい兆しを見せつつある。

ケージ飼いでは糞がポタポタと生で落ちるが、農園の鶏舎では鶏が歩きまわり、遊ぶことで、糠床を掻き混ぜるようして微生物の力でバランスを保っている。鶏を出荷すると、糠床のような糞に米ぬかを混ぜ込み、水分をあたえて耕運機で発酵させて堆肥にする。完熟ではないが割と良質な堆肥が出来、好んで利用して下さる農家さんが少しずつ増えてきた。

良いお取り計らいを頂き、足を運んで下さる農家さんの顔ぶれが自然と若返りをしているのも嬉しいかぎりで元気が出る。

先日、熱心な方が持ち帰った堆肥を「成分分析」に出したと知らせてくれた。結果がどうであれ、一歩踏み込んだ取り組みをして下さる姿勢が心強い。農園で行う発酵作業は自分たちの経験と勘だけを頼りにしてきたので、まだまだ良い堆肥にする伸び代がありそうだ。

化成肥料と違い、成果がでるまで時間がかかるが、農家さんが四季の作物を丹精込めて育てるのと、鶏を平飼いで飼育するのは営みに通じるものがある。ゆっくりと時間をかけて良い作物をつくってもらいたい。

堆肥で農家さんとつながるのは畜産の本来の姿だ。健康な鶏は良いタマゴを産み、立派な糞もする。堆肥を通じて地域に根をはる。これは大型養鶏には真似できない強みだと信じて取り組みを深めていきたい。

あだちまさし。