黒豆

冬至が過ぎた。この日を境に一陽来復で日脚が少しずつ伸び、鶏の産卵活動が上向きになってくる。

本格的な寒さの訪れもこの時期から。鶏は寒さで消耗する体力を取り戻そうと食欲が増す。つまり給餌量も増える。これから春まで厳しい寒さの早朝仕事。私たちにとっては、ちょっとした「寒行期間」になる。

鶏のことを何も知らずにはじめた仕事なので、年を重ね、経験で学びながら前へ進んできた。しかし、四季は一年に一度。わずかな積み重ねでしかない。

この少ない経験から得た知識を根底からひっくり返すような異常気象に今年は多く見舞われた。特に年明けからの厳寒に加えての少雨による水不足が私たちにとっては深刻だった。

気力と体力の限界を感じるなか、私生活を見直そうと考えて、思い切って「酒」をやめた。日々の改まりを大事にする習慣を大切にして、晩酌への執着を「朝食」へ切り替えてみた。

毎朝、味噌汁をつくり、前日に用意したおかずを小さな皿に盛りつけ、それにヨーグルト。その上に「黒豆」をひとさじのせる。昨年末に知人から頂いた黒豆煮の瓶詰めが正月をすぎて、家族から忘れられようとしていたが、これを毎日の朝食に添えることにした。

以前は正月にしか口に運ばなかった「黒豆」を「心のスイッチ」にして毎朝いただく。休みなく続く営みを正月のような気持ちで嬉しく迎えられるよう願いを込めて。

明日も朝食の「黒豆」とともに、また新しい朝がくる。

あだちまさし。