3対1

6月11日、梅雨入り。雨の恵みへの感謝と鬱々した気分が葛藤する季節だ。

梅雨入り前、農園で働く男性から「きょう梅をもぎました」とメールが届いた。無表情で短い言葉から、彼の心の中の様子を想像するが私の日課になっている。「梅」というのは、自宅の裏山の梅の木で、毎年、彼の母親が梅干しを仕込むことから、収穫の手伝いをしたということ。また、その梅干しを私が楽しみにしているので、直訳すると「今年も食べるか?」ということである。

コミュニケーションに難しさを感じている彼に携帯電話を与えたのは5年前。それから毎日、言葉のキャッチボールが続いている。着信する内容のほとんどは、仕事や家庭で抱えている不安や不満が多いが、時々、ポツンと今回のようなメールがくる。明るく広がる話は大きく広げ、ネガティブなことは出来るだけポジティブな内容に変換して投げ返す。

クセのある短い言葉に、時折、ズバッと刺さる直球を織り交ぜながら投げ込んでくるメールには、私自身も無意識に目を背けていることも多くある。投げてくることに意義があるので、メールでは善し悪しは決めつけずに、ありのままの気持ちと、事実をしっかりと受け止めたいと心がけている。

最近、ある心療内科医のコラムのなかで、ポジティブ心理学の『3対1の理論』というものが紹介されていた。一点の曇りない状態を目指さなくてよい。ネガティブな気分が1あっても、ポジティブな気分が3の割合であればよいというものだ。ポジティブな感情というのは、ひとつではなく、感謝、平安、好奇心、わくわく感、充実感、自己肯定感などさまざま。日常の中で、憂鬱な気分がおこった時、その割合の3倍、ポジティブ感情をキープするのを目指すと心が健康的になるとされている。

心の中が雲ひとつなく晴天ばかりの人はいない。ネガティブな部分を認めた上で、ポジティブな感情比率を上げていけば良いと思う。その手助けになるようなキャッチボールでありたい。それは私自身や農園の比率を上げる働きに繋がってくると思うから。

明日からも梅雨空が続く。雨もまた「ありがたし」と前向きにとらえたい。

2020.06.28 あだちまさし