【かいり】

今月初め、某コンビニの新作スイーツ「ガトーショコラ」が発売から四日間で100万個売れたというニュースを少し複雑な思いで読んだ。おそらく圧倒的な数字なのだろうが、全国に無数にある店舗で一斉に販売され、SNSなどを介しながらブームが瞬時に拡散されるご時世に面食らう。

その某では、年末二十歳になる長女がバイトをしている。いつもの遅い夕食をバイト終わりの長女と食卓を囲みながら、店舗での仕事を聞き、持ち帰ったコンビニ弁当に箸をのばす。「農」に近い生産現場で働く身としては耳をふさぎたくなるような話もあるが、長女が嬉々として話すので黙って耳を傾けるようにしている。

二十年くらい前になるだろうか。毎週土曜日に和菓子屋のご主人がタマゴを買い求めに来店されていた。凛々しい顔立ちの初老の男性で物静かな方だったが、時世の流れをとらえる感覚の鋭さは少ない会話の中で感じていた。時々、直売所で顔を合わせると生産現場の仕事を労って下さるが、「農」の事を良く理解されているのが何より嬉しかった。

職人気質で口数もそれほど多くなかった主人が、当時コンビニで流行し始めたスイーツや和菓子を話題にし「これから大変になる」と危惧されていた事を長く覚えている。気軽に立ち寄ったコンビニで饅頭や大福を買われると和菓子屋への来店機会が少なくなると話されていたように記憶している。

タマゴが不足する時期は、しばしば和菓子屋へ配達させて頂くこともあった。どっしりした門構えの暖簾をくぐると、店舗の片隅に趣味で収集された骨董と囲炉裏があり、火鉢に掛けられた鉄瓶で湯を沸かし、常連さんにはお茶を振舞われていた。その囲炉裏での会話から私たちとのご縁ができたと後で知った。

ご主人が病で倒れ、お取引はなくなったが、私たち生産者にとっても、あの囲炉裏が「食」と「農」をつなぐ大事な役割をはたしていたように、いまさらながら深く感じている。そして、当時、心配されていたのは売上が下がることだけではなく、もっと大事な人と人のつながりを危惧されていたような気がしてならない。

コンビニで新商品のスイーツを見かける度に、凛々しい顔立ちの主人と囲炉裏を思い出し、懐かしく、そしてちょっと寂しい気持ちにもなる。

2021.10.25 あだちまさし