釜焚き塩

久しぶりに雨が降った。雷鳴が遠くから聞こえ、真っ黒い雲に覆われ短い時間にザッときた。

恵みの雨ほどではないが砂埃が雨で洗われて山の緑と空の青さがクッキリして雨上がりの匂いに心地よさを感じた。

今年は梅雨明けが早く厳しい暑さが長く続いている。最高気温が体温を上回る日も少なくなく「酷暑」とか「災害」という単語で暑さを表現された。

鶏は暑さに弱いので食欲不振から体力を落とし産卵率が下がる。命をつなぐ最低限の栄養を採るのが精一杯で排卵活動である産卵を止めるからだ。

産卵量の落ち込みに備えて考えられる調整はしているが、例年、これが思うようにならずお客さまにご迷惑をおかけしている。

タマゴは鮮度が一番なので、高温が続く時期には過剰な在庫は持たずに出来るだけ早くお客さまへお届けしたい。

そんな私たちの思いと、暑さに耐えて産卵する鶏の間に溝が生じるのだが、7月中旬以降の猛烈な暑さは想定の範囲を大きく超えた。

いつも以上に遅配やお断りの電話をする回数も増え、途方に暮れていたが、ここ数日は産卵数が回復傾向にあり少し安堵している。

鶏の産卵には「日長」が大切。夏至の日長時間が産卵活動に最適とされているので、日没が早くなる分、起床を早くして活動時間を確保する。

したがって夜明け前の涼しい時間に餌をコツコツと食べて産卵に必要な体力を取り戻しつつあるからだろう。

目立った死鶏は出さずに酷暑の山は越えたので、ここから鶏の底力を信じて辛抱強く回復を待ちたい。

先日、作業を労って下さるお客さまから、熱中症予防に役立てて下さいと「塩」をいただいた。

長門市油谷湾の海水でつくった「釜焚き塩」で、袋には「春塩」とあり、3月〜5月の海水の塩で出来上がりまで1カ月を要すると書かれている。

「天日」とか「釜焚き」というフレーズが如何にも暑そうで、この時期の作業が過酷なことは容易に想像できる。

四季の塩がある事と、同じ県内で塩づくりにこだわる方の存在を知り、心が元気になる。

素材の味を引き立てるシンプルな料理で味わって欲しいと書き添えてあり、「塩むすび」や「ゆでたまご」にと勧めて下さった。

まだ口にしてないが、残りの暑さを乗り越えられるように祈り、神棚に「釜焚きの塩」を供えた。

あだちまさし。