あけぼの

細長くのびる土地に東を指すようにして鶏舎がならぶ。
一年で最も日中が短い時期、月明かりのなか採卵をはじめる。
寒さに耐える脂肪を増量して鶏の体は、夏場に比べるとどっしりと安定し、長く寒い夜を辛抱して産み落とすたまごは、いまが『旬』である。

例年どおりの慌しさだが、昨年のコロナ禍での年の瀬を考えると、この忙しさもありがたい。限られた数の卵を丁寧に集めながら、落ち込みを挽回しようとご商売で日々奮闘される方を思い、疲れた体に鞭を打つ。

息を切らし順番に鶏舎をまわる最中に、うっすらと夜が明け、東側の山々が次第に明るく照らされる朝焼けがとても美しい。きりきり舞いの一日のスタートだが一瞬だけ時間がとまったように心が和む。判を押したような鶏の産卵活動に心底感謝し、大きく深呼吸して乱れそうになった気持ちを整えるようにしている。

佐賀県唐津市で農業に従事する傍ら文筆活動を続ける、農民作家の山下惣一さんは近著で〈拡大よりも持続、成長よりも安定、競争よりも共生。昨日のような今日があり、今日のような明日があることが大事なのだ〉と述べている。

同じ第一次産業に身をおく立場として深く共感できる。大きい農業か小さい農業かは、それぞれの立場で永遠の課題であるように思うが、鶏のいのちの上で営みをしている私にとっても、営みに感謝する感性が麻痺してしまうことがあってはならないと、日々の繰り返しの仕事を通じて感じている。

ゆく年にまったく悔いがなく、くる年に一片の不安がないわけでない。
どこかの国で問題が起きると複雑に連鎖して、遠くの国民に跳ね返る時代に生きていることがコロナ禍で浮彫になった。まだまだ油断が出来ない状況が続いているが、気持ちを切らさず一年を送れたことだけは確かである。色々なことが起こった一年だったが、大きく変わらず過ごせたことが何よりの収穫だった。

起こってくることに全てに理由があるとすれば、うまくいかなかったことにも何らかの意味があるのだと思う。今日も夜明けとともに気持ちを新たにしたい。

2021.12.22 あだちまさし