母が元気だから


ずっと続けてきた早朝の採卵をやめている。理由を正志に話していない。疲れるからとか寒いからではなく、指さきが冷えて痺れるような早朝の採卵は、これから正志が体感して冬になれば水まわりの凍結対策など、わたしが重ねた失敗を体験することが彼の力になろう。3時すぎの起床など、わたしの基本的なリズムに変化はない。
母は言うことは聞き苦しい内容ばかりになった。けれども昭和26年という、わたしが生まれた時代がわかるにつれて、母ひとりでわたしをその時代に育ててくれた苦労をわからねばならないと思う。他人が食べて捨てた焼き芋の皮を拾って食べたことを母が人から聞いて、いまでも覚えているぐらい叩かれた。生活に精一杯だった母の嘆きだったのかもわからない。母の細くなった手をなでながら思い出がでてくる。