雪解け

“辛抱の経験値が上がった”
寒波が峠を越えて解けはじめた雪を見ながら、そう感じた。

今月7日夕方から強い冬型の気圧配置となり、日中の気温が氷点下から上がらない状態が三日間続いた。農園の気温は−4℃から−6℃を行ったり来たり、断続的に雪が降り続く、今冬一番の寒気。大雪、風雪、低温注意報や警報の中での営みが身に浸みた。

養鶏は時を失わない鶏の特性を活かし、鶏に正しく時を刻ませるのが営みの要。つまり、正しく時を刻み産卵してもらわなくては営みが成り立たないし、その中で力強く鶏が育つ手助けするのが私たちの務めである。

まずは従業員の通勤の無事が頭から離れない。国道2号線から農園へまでは幾つかのルートがあるが、どの道路もアイスバーンが点在する危険な路面状態。今回ぐらいの寒気になると不要不急の外出を控える場所に農園はある。明け方から活動する鶏たちが産み落とす卵を、お客さまにお届けできる姿に整える作業は一人ではできない。

そして氷点下で一番の気がかり「水」。鶏たちの飲水確保である。凍結防止で排水口から糸状に流し続ける水が−3℃以下になると日中でも凍結をはじめるので、かなり注意が必要だ。水量が豊富ではない井戸水の水位ゲージに気を配りながらの排水は神経を擦り減らし、送水管の破裂や、長時間の凍結で飲水が止まった苦い経験も絶えず脳裏を過ぎる。

それに加えて、8日の金曜日は年始めのお得意さま周りで私は農園を離れると日没まで帰ってくることができない。自分が握るハンドルの不安を忘れるぐらい、様々なことが同時進行する三日間。年末年始の疲労が蓄積した体には堪えたが、幸い大きな事故もなく乗り越えることができた。また、平時の長い積み重ねの経験から、ハンディを持った仲間のそれぞれが換えの効かないノウハウを蓄えていることに改めて気付かされた事も大きな収穫だった。

雪解け水が、静かに、そして力強くゆっくりと井戸の水位を押し上げる様子を見ながら、体中から緊張感も解け、じわじわと「ありがたい」という気持ちに心が包まれた。

2021.01.25 あだちまさし