桜でんぶ

宇部市北部にあたる吉部は船木街道に沿って発達した宿場町で、今でも街なみに昔の面影が残る。その一角にあるのが「仕出し 柳屋」

農園も開園当初から大変有り難いお取引を頂いている。というのも、規格外のタマゴを365日快く引き受けて下さり、毎日の仕事終りに不揃いタマゴをトレーにのせて運ぶのが私の日課である。

そんな仕事柄から、目に映る宴席、慶弔事の仕出し料理から季節の移り変わりを楽しませてもらっている。特に繁忙を極めるのが年末年始。元日からおせち料理の受取で賑わう店内と、活気溢れる板場の空気から元気のお裾分けをいただけるのが嬉しい。

板場は女将さんの家族と近隣から通う従業員の主婦の方々で切り盛りされるが、ご高齢になられた今も現役で板場を支える女将さんの細かな気配りが、地域に安心感を与え、愛される理由と思う。

柳屋の仕出しに付き物なのが「巻き寿司」。これが、ことのほか美味い。「おふくろの味」とか「昔ながらの味」というフレーズがしっくりくる。頬張ると口の中にホッと安心感が広がるのだ。

見た目は普通の巻き寿司。寿司飯に具材をはさみ、米ひと粒ずつの空気を適度にキュッと抜きながら海苔で巻いたもの。具材は玉子、きゅうり、かんぴょう、しいたけ煮、あと「おぼろ」。柳屋でいう「おぼろ」とはエソのすり身、いわゆる「桜でんぶ」のこと。これが昔から女将さんの手作りで良い旨みになっていると馴染みのお客さまに評判が良い。

トロ箱で運ばれてきたエソを蒸して、砂糖と塩で味を整えながら炒り煮し、食紅で桜色に染め、出来上がったそぼろを冷ましながら小骨を取り除き仕上げる。これが結構な手間がかかる作業。タマゴを届けた際に、桜色のおぼろをバットに広げ、従業員総出で小骨に目を凝らす姿を何度も見せてもらった。

安価な市販食材を使わず、手間隙を惜しまない「桜でんぶ」作りには、女将さんの心意気が光る。昔ながらの細かな気配りがギュッと巻かれた「柳屋の巻き寿司」を、多くの人に胸を張ってお勧めしたい。

2019.03.24 あだちまさし。