アニマルウェルフェア

太陽の光が明るさと強さを増す。初夏も近い。

季節の変わり目は鶏の飼育にとって注意が必要だ。特に、春と秋の入口にあたる時期に「悪癖(あくへき)」が発生しやすい。鶏は群の中で順列をつけたがる性格あるので、ちょっとしたストレスから力関係が崩れると「尻つつき」という問題行動が起こる。

産卵中の鶏の尻を別の鶏が嘴(くちばし)で突き、出血する。血液に反応するように行動がエスカレートし、群の中で、その悪癖が伝播して事故が広がるのだ。ストレスの原因は様々だが、寒暖差と日長変化で個々の鶏に生じる体調の差が引き金となることが多い。

農園の鶏は行動に制限を設けない平飼い飼育のため、一旦、この悪癖が広がりはじめると収拾するのに時間がかかる。最近は、経験を通してストレスの芽を摘んできたが、先月あたりから所々で尻つつきを見かけて頭を抱える。おそらく、今年の「春の入口」を見極める観察不足だろう。何が原因だったのか、鶏の声なき声に耳を澄ませ、黙考する日々が続いている。

「アニマルウェルフェア(Animal Welfare )」という欧州発の概念がある。家畜福祉や動物福祉と訳される。感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法を目指す畜産の考え方である。

私たちも、この考え方に近い想いでストレスフリーの環境を整えてきたが、すべてのストレスを回避するためには、まだ配慮が足りないことがあるのだろう。日々の仕事に追われ、鶏に心を寄り添わせることをおろそかにしていなかったか、もう一度、自問しなければならない。経済動物だからと心の中で切り捨ててはいないか。日々、心を改まる必要がある。

鶏は共に働く同僚であり、大切な仲間だから。

2019.04.21 あだちまさし