日別アーカイブ: 2016年7月29日

朝の会話

朝6時。気温23度。晴れ。最高気温31度。6時ごろから鶏舎を一回りするが餌の摂取量が極端に少なく携帯で昨夜の気温を確認する。

木曜日23時が24度前後、それから徐々に気温は下がるものの翌朝5時の22度が最低気温。それから一日、気温は上昇するのである。私たちは扇風機やクーラーを使い涼をとって体の疲れを癒すことができるが、鶏にそこまで十分なサービスができない。後ろめたさを感じならがら作業の手を進めた。

今日は雛の入荷。6時前に四トントラックで、いつもの「茶髪、ロンゲ、ピアス、30歳」の彼が配達。自分の仕事を進めたかったので、特に会話はなし。採卵途中に受領証にサインする際、一羽の死鶏が目に留まり少し立場話。まだ太陽が昇りきっていない時間の移動だが、かなり神経を使う仕事。私も同じような経験があるから、彼を責める気持ちは更々ないし、小さな鶏の命とはいえ、この瞬間が当たり前になってはいけない。一人の努力や工夫だけでは、どうにもならないが、彼もまた命を預かる仕事をしているのである。

初めて出会ったころの彼はガードはかなり高かったように覚えている。私も彼の独特の風貌に気持ちは「やや引き気味」。納品は朝の忙しい時間帯であるし「まぁまぁどうぞ」とお茶を出すような間柄でもなかった。

社長さまとは年に数回、顔を会わせるが色々と苦労話を聞かせて頂き、思うように人材を確保できない心痛をよく耳にしている。

そんな社長さまとの話しが頭の隅にあり、何年前からだったか憶えていないが、配達の彼に対して私の方から少し心のガードを下げた。

彼の仕事は孵化したヒヨコを産卵直前まで育てる「育雛会社(イクスウ)」。私は仕入れた鶏の能力を最大限に発揮してもらいタマゴを販売する養鶏農家。立場は違うものの、育雛段階における作業の苦労を聞かせてもらうと自分のためになることが多い。

彼からネホリハホリ聞いて、仕入れ業者の揚げ足を取ろうという会話ではなく。仕事内容は違うが同じ「鶏の命」を大事にする仕事、ブッキラボウだが彼が10年以上経験してきた仕事の重みはかなりある。

最近は、従業員としての彼の立ち位置や業務などを聞き、自分の立場に置き換えて感じることが多い。

日頃、農園で働くFさんやIさんが、どんなことを考え仕事をしているだろう想像しながら耳を傾ける。

わずかな会話だが、私からは同じ質問をしたことは一度もない。流暢ではないが彼の受け答えの中で、生き物を生業とする職業に従事する彼から聞く話は一つ一つ身に浸みるから。

好きで就職した会社ではないと推察するが、10年以上、鶏と向き合い仕事を続ける彼の心は、私の気持ち近いものを感じる。

凄惨な事件のニュースが連日報道される中、一羽の死鶏を挟んでの朝の会話。彼の「心」は大丈夫と改めて安堵した。

あだちまさし