蝉の鳴き声

朝6時。気温20度。晴れ。仕事を前倒しに済ませたかったので、早めに家を出る。自宅から農園まで、やや東向きに走るため、山の間を抜ける道は窓を開けて走ると夜の冷気が残りクーラーより心地良し。もしろ今朝は寒いぐらいだった。

ゆっくり上がる太陽光線が直接あたると夏本番の感じがするが、朝夕の影の長さを見ると季節は確実に秋に向かっていると実感する。

6時ごろから鶏舎をひと周り採卵。餌の減り具合も良好。死鶏なし。卵殻のツヤよく、集卵数は少なめだったが安心した。その後、パック詰め。8時すぎに蝉の大合唱と、時折、クルクル回る風見鶏を見ながら配達へ出発した。

金曜日配達に伺うお宅に少し気になる小さい男の子がいる。

チャイムを押すと男の子が思い切りの笑顔で飛んでくるが、彼が想像していた来客と違ったようで、私の顔を見るとお爺ちゃんやお婆ちゃんの後から、やりとりを曇った顔で伺っている。

向かいの奥さまとも仲良しで楽しそうのおしゃべりし、奥のお宅の、私にはまったく懐かない番犬も彼にはシッポを振る。

配達に伺うようになって一年以上になる。毎回ではないが、かなりの頻度で顔を会わす可愛らしい男の子。年頃は小学生前ぐらいと想像していた。

大人嫌いとは逆で「お話しようよ」といった表情で私を見るが、何となく話かけることを躊躇する。男の子のお宅へ伺う時間は午前10時前後。

事情を尋ねたことは一度もないが、平日のこの時間帯に私が愛想よく言葉かけするのは、何となくだが「躊躇」するのである。

先月の集金の際、お爺ちゃんが財布を捜しに奥に入られた時間、玄関先で彼と二人きりになった。「お話しようよ」の表情で見つめられ、しばらく辛抱していたが間が持たず私の方から年齢をきいた。

元気よく右手を開きながら「5才!」。まだまだ聞いてという表情だったが、私からは「へぇー」とだけ答える。子供嫌いではないが「お話しようよ」の彼にとって、私は話し相手として適切ではないと、何とな「躊躇」するある。

今日伺った際、玄関先に近づくと庭の方から蝉の鳴き声が聞こえ、農園を出発する時のそれより大きな鳴き声が少々気になりながらチャイムを押したところ、庭先から蝉がたくさん入ったカゴを抱えた男の子が「蝉とったよ!!」と走って来た。

汗で髪の毛が濡れ、初めて見る5才の思い切りの笑顔に押されて、「すごいねぇ」と表情がゆるんだ。庭に目をやると、お爺ちゃんがランニング姿で汗を拭いておられる。二つ三つ言葉かけをするが「もっとお話しようよ」の彼に、やはり「躊躇」するのである。

5才の夏を思い切り満喫してほしいなぁと感じながらお宅を後にする。

今日も一日ありがとうございました。

あだちまさし